前回の記事では、ゲーミフィケーションの「楽しさ」が学習目標を追い越してしまう悲劇についてお話ししました。
では、「楽しく学べるゲーミフィケーションなら問題ないのか?」
ちょっと待ってください。それは誰にとっても楽しいものですか?
そこで本記事では、もう一つの深い落とし穴である「エンゲージメント(没入感)」と「アクセシビリティ」の衝突についてお話ししたいと思います。
「直感的な操作」という名の試練
「受講者に能動的に参加してほしい!」という設計者の熱意が、時として受講者を物理的に追い詰めることがあります。
例えば皆さんが考える「受講者」は、おそらく「日々のちょっとした動作を問題なくこなせる人」だと思います。
ここで少し立ち止まって考えてみてください。本当に、今までもこれからも「全員」がそのような受講者でしょうか。
1. 「ドラッグ&ドロップ」に潜む罠
例えば、学習内容の理解を深めるために、画面上の要素を正しい場所に並べ替える「ドラッグ&ドロップ」のクイズを導入したとします。設計者は 「単なる選択肢ポチポチより、自分で動かす方が没入感が出るよね!」とか「手を動かしたりビジュアルがあった方が飽きないよね」みたいに思いながらドラッグ&ドロップを選ぶでしょう。
いい感じです。受講者の意欲をこれでもかと引き出そうとしています。
ここで質問。以下のような状況の受講者がいたらどうなるでしょう?:
- マウスの反乱:会社の備品で、クリックが効きにくいボロボロのマウスを気合で使っている受講者。
- 揺れる環境: 移動中の電車内で、不安定なネット環境と格闘しながらスマホを操作する受講者。
- 利き手の呪い: 怪我をしていて、慣れない方の手で必死にポインタを動かしている受講者。
彼らにとって、このドラッグ&ドロップの「没入型クイズ」は、学習ではなく「苦行」に変わります。ゴール直前で指が滑り、正解が元の場所に戻ってしまった瞬間、受講者はマウスを床に投げて踏んずけてしまうかもしれません(苦笑)。これがお昼前でお腹がすいてたりしたらもう大変です(泣)。
そうなると、もはや学習どころではありません。
どうすればいい?: > 「ドラッグ&ドロップ」を使うなら、必ず「クリックだけで選べる選択肢」など、代替の操作手段を用意しましょう。「どんな環境でも、同じゴールに辿り着けるルート」が複数ある。これが本当の意味での「直感的な設計」です。
2. 「制限時間」が奪うもの
では、「ランキングを盛り上げよう!」と、回答スピードに応じてポイントが入る仕組みを作りましょうか。受講者は 「早く答えなきゃ!」というドキドキ感でエンゲージメントが高まる……はずです。
ハラハラドキドキで一生懸命取り組む受講者、、、いい感じです。
ここでまた質問。
受講者の中に、じっくり文章を読み解きたい人、視覚情報を処理するのに少し時間がかかる人、あるいは単にキーボード入力が苦手な人がいる場合はどうなるでしょうか。
タイマーのカウントダウンは「励まし」ではなく、受講者を追い詰めるただの「プレッシャー」になってしまいます。
焦るあまり中身を読み飛ばし、とにかくこのタスクを終わらせることに集中し、結果として何も身につかない。
これももはや学習どころではありませんね。
どうすればいい?: スピードを競わせるのではなく、「じっくり考えるモード」と「タイムアタックモード」をユーザーが選べるようにしたり、速さよりも「正確さ」に高いポイントを振る設計を検討しましょう。
「アクセシビリティ」は制限ではない
「アクセシビリティを考えると、面白いことが何もできない」と思うかもしれません。
でも、本当の「エンゲージメント」とは何でしょうか? それは、特定の環境や身体能力を持つ人だけが楽しめる「特権的な体験」ではなく、「どんな状況にある受講者でも、ストレスなく内容に集中できる状態」のことではないでしょうか。
操作でイライラさせてしまった時点で、その教材のエンゲージメントは本来の目的を失い、学習目標達成への貢献はゼロどころかマイナスです。
まとめ:設計者の「優しさ」をシステムに
ゲーミフィケーションで「操作の楽しさ」を追求するのは大賛成です。学習が楽しいと受講者も続けやすいですからね。ただそこに、例えば「この操作って今の私ならできるけど、マウスが使えなくてもできるかな?」といったような想像力をひとさじ加えるだけで、教材はぐっと優しくなります。
アクセシビリティは、誰かを助けるための「特別なルール」ではなく、受講者全員を学習目標まで安全に送り届けるための「ガードレール」なのです。そしてそのガードレールをうまく取り入れることで、ゲーミフィケーションが学習目標達成への貢献になります。
「楽しい!」の入り口を広げて、みんなが置いてけぼりにならない設計を目指していきたいですね 🙂
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