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Instructional Design(教育設計)

Category: 日本語記事

  • 「終わったー!」 研修の最終セッションが終了し、受講者が満足げな顔で部屋を出ていく。手元のアンケートをさっと集計すれば、並んでいるのは輝かしい「オール5」の数字。 「はー終わった〜。やっぱり私最高。」 ……ちょっと待ってください。そこで終わりですか?あなたの仕事がここで終わっているとしたら、その豪華な研修は、夜空に消える一瞬の「打ち上げ花火」で終わってしまうかもしれません。 そこで本記事では、研修担当者がつい陥ってしまう「研修やりっぱなし問題」についてお話します。 満足度の余韻に隠れた「冷酷な真実」 前回は、アンケートの「オール5」が必ずしも成功を意味しないという話をしました。しかし、本当の恐怖はその先にあります。研修担当者が「アンケート結果も良かったし、無事に終わった!」と打ち上げ(あるいは安堵)をしているその裏で、受講者の頭からは、学んだ内容が驚くべきスピードでこぼれ落ちているのです。 研修の本当の成果は、当日の熱狂ではなく、その後に現場で起きる「変化」——パフォーマンスの改善、技術の向上、問題解決、あるいは外部からの評判——によってのみ証明されます。 そこで重要になるのが、学んだことを忘れない「知識の維持(Knowledge retention)」と、それを現場で実際に使う「学習転移(Transfer of training)」です。いくら研修で「わかった!」と盛り上がっても、現場に何も残らなければ、その設計は「うまくいかなかった」ということになります。 研修は「イベント」ではなく「プロセス」である 多くのIDが陥る落とし穴は、研修当日を「ゴール(終着点)」に設定してしまうことです。 イベント思考になると、当日の盛り上がりがピークであり、それが終われば「あー終わったー」と解散。すぐに「はい、次のプロジェクトいってみよう。」となってしまいます。 そこで研修の成功には、研修はあくまで現場を変えるための「きっかけ」にすぎない、というプロセス思考が重要になってきます。 当日どれだけ豪華な打ち上げ花火を上げても、その光が現場のデスクを照らし続けなければ、投資した時間もコストも「ただの気晴らし」に消えてしまいます。 私たちID(インストラクショナルデザイナー)がフォーカスすべきなのは「研修の実施」ではなく、「研修による現場の変化」です。 「現場の日常」という強力な引力 受講者が研修室を一歩出た瞬間、彼らを待ち受けているのは「溜まったメール」「緊急のトラブル」「いつものルーチン」という強力な引力です。 研修で学んだ「新しいやり方」は、慣れるまでは一時的に効率が落ちます。フォローアップがないと、受講者は数日以内に、より楽で馴染みのある「元のやり方」へと引き戻されてしまいます。これがIDの世界で言われる「学習転移の失敗」です。 だからこそ、研修内で「わかった」の先にある「どう活かすか(Apply)」までを徹底的に設計する必要があります。 例えば、研修の中に極めて実践的なロールプレイやケーススタディを取り入れ、「新しいやり方」への心理的抵抗を最小限に留めておくなど、研修を、現場での実践を見越した「予行演習」にしておくといいですね。 設計者の仕事は「研修が終わった後」にこそある この落とし穴を避けるには、プログラムを設計する段階で「研修後の導線」を例えば以下のようにあらかじめ組み込んでおくといいですね: まとめ:真の評価は「現場」で起きる どこぞの映画のセリフではありませんが、真の評価は会議室(アンケート用紙)で起きているのではありません。「現場」で起きているのです。 IDの本当の勝負は、受講者が研修室のドアを閉めた後に始まります。打ち上げ花火を上げて満足するのではなく、その火を現場で灯し続けるための「仕掛け」までをセットで設計すること。それが、形骸化した研修を「組織の力」に変える唯一の道です。 【企業研修・ID導入等のご相談はこちら↓↓↓】 → [お問い合わせページ] → [無料カウンセリング予約ページ]

  • 前回は「お仕事引き受けすぎ問題」についてお話ししました。忙しさに負けて設計のプロセスを端折ってしまうと、そのツケは意外な形で回ってきます。その代表例として、評価設計の甘さによる「全部『5(大変満足)』の満足度調査」が挙げられます。 アンケート結果を見て「満足度100%!大成功だ!」と喜んでいる方、実はそれは、学習者からの「やっつけ仕事」かもしれません。 そこで本記事では、インストラクショナルデザインにおける「評価」の設計についてお話します。 その「満足」に中身はありますか? 研修の最後に配られるアンケートの全項目に「5(非常に同意する)」が並んでいるのを見て、胸をなでおろした経験は誰しもあるはずです。 しかし、ここには以下のような大きな落とし穴が潜んでいます: 「全部5」の結果は、時に「可もなく不可もなく、特に印象に残らなかった」ことの裏返しでもあるかもしれません。 なぜ「アンケートの張り切りすぎ」が裏目に出るのか IDとして詳細なデータを取ろうと意気込むあまり、アンケートを細かく作りすぎていませんか?実はこれが「全部5」を誘発する原因になります。 学習者にとって、研修後のアンケートは「振り返り」の時間であるべきです。しかし、「あなたが知りたい」設問が20問も30問もあると、それは「内省」ではなくただの「やっつけ作業」に変わります。 考えてもみてください。研修が終わって考えることは何ですか? 多くの人はもう研修のことなんか考えたくないですよね。質問を詰め込みすぎることは、学習者の貴重なアウトプットの機会を奪い、結果としてデータの信頼性を自ら下げてしまうことになるのです。 「評価」の目的を再定義する:笑顔ではなく変化を測る アンケートの目的は、ステークホルダーに「満足度」を報告して安心させることではありません。プログラムを改善し、学習者の「行動変容」を促すことです。 まとめ:真の評価は「現場」で起きる 「全部5」のアンケート結果に満足して改善を止めてしまうこと。これこそがIDが最も警戒すべき落とし穴です。 素晴らしい評価とは、アンケートの数字ではなく、「受講者が現場でこれまでと違う行動をとった瞬間」にあります。 アンケートを「作業」にさせない。そして、数字の裏にある学習者の本音に耳を傾ける。研修後のアンケートがその研修のためだけではなく、「次につながる評価設計」になるように目指しましょう。 【企業研修・ID導入等のご相談はこちら↓↓↓】 → [お問い合わせページ] → [無料カウンセリング予約ページ]

  • 先日はAI活用やSMEとの連携についてお話ししてきましたが、今回は久々の落とし穴シリーズ。 ID(インストラクショナルデザイナー)が陥りやすい「落とし穴」の一つに、「お仕事引き受けすぎ」があります。 特にお休み明けのこの時期、溜まっていた依頼や「とりあえずこれお願い」という無茶振りに、NOと言えずパンクしていませんか? 実はこの「引き受けすぎ」には、単に自分が忙しくなるだけでなく、本来の『設計』という付加価値を損なうリスクが潜んでいます。 そこで本記事では、IDとしてお仕事を引き受ける際の判断基準や、SMEやステークホルダーを巻き込んだ戦略的な優先順位の付け方についてお話しします。 なぜ「引き受けすぎ」が致命的な落とし穴なのか 依頼をすべて受けていると、私たちの仕事は「学習設計」から「やっつけ作業」へとすり替わってしまいます。そうなると、一番の被害者は学習者です。 「とりあえずスライドにして」「急ぎで動画にして」という依頼をこなすだけで精一杯になると、ID本来の価値である「分析」の時間が消えます。 「なぜこれが必要なのか」「これで学習者は何を得られるのか」「本当にこの研修で課題が解決するのか?」 こうしたことを考える余裕がなくなると、「とりあえずこの日までに渡す」こと自体が目的になり、SMEから受け取った情報をそのまま流し込むだけの「情報の洪水(Brain Dump)」が出来上がります。 良かれと思って引き受けた仕事が、皮肉にもプログラムの質を下げ、学習者の時間を奪うという「最大の失敗」を招いてしまうのです。 引き受ける基準:その依頼は「学習目標」に直結しているか? 受け持つプロジェクトで忙しくなってきたら、例えば以下のように立ち止まって考えるための基準を持ちましょう: 「全部やります」と答えて質を下げるより、「学習効果を最大化するために、今はここにリソースを集中させます」と提案したり、チームにもっと適任者がいないか確認するなど、自分の許容量を把握して、難しかったら代替案を挙げるなどといった行動は、プロとしての誠実さです。 優先順位の付け方:SMEやステークホルダーを「味方」にする 優先順位は自分一人で抱え込んで決めるものではありません。以下のように周囲と連携することで、客観的な「正解」が見えてきます。 SMEと「インパクト」を握る: 専門家は「全部大事」と言いがちです。そこを例えば「現場で最もミスが起きているのは?」「初心者が最初につまずくのは?」などとと問いかけ、「今何が必要か」を優先して設計すべきポイントを絞り込みます。 ステークホルダーと「現状」を共有する: 締め切りやチームの状況を可視化し、「今のリソースで質を担保するなら、どれを優先すべきか?」を相談しましょう。もし締め切りや緊急性が被っていたりしたら、関係者にどれか動かせるものがないか確認するのも一つの手段です。これは拒絶ではなく、プロジェクトを成功させるための「冷静な現状分析」の共有です。インパクトや緊急性は、彼らとの対話の中ではじめて明確になります。 まとめ:自分のキャパシティをマネジメントする 優先順位をつけずに何でも引き受けると、すべての仕事が「中途半端な60点」になります。 リサーチを端折って形だけのアンケートを作れば、受講生は中身を読まずに全部の「すごく同意」に〇をつけ、現場は何も変わりません。そんな「やりっぱなし」を防ぐためにも、IDには「意思表示の勇気」と「優先順位を提案する力」が求められます。 「便利屋」を卒業し、周囲を巻き込んでリソースをコントロールする「戦略的パートナー」を目指しましょう。最高の設計は、あなたの「余裕」から生まれます。 【企業研修・ID導入等のご相談はこちら↓↓↓】 → [お問い合わせページ] → [無料カウンセリング予約ページ]

  • 昔は「通信教育」、今は「オンライン学習」として、自分のペースで学ぶことができますが、今は自分でできる学習プログラムが本当に多種多様にありますね。 朝活として少し早く起きて英単語を覚える、サブスク講座を通勤電車で見る、週末に無料で見られるウェビナーを視聴するなど、様々な選択肢があります。 ただその一方、色々試した挙句どれも長続きしなかったという経験をお持ちの方もいるのではないでしょうか。 「無料だからやってもやらなくても変わらない」、「時間がないからまた今度する」、「一人じゃやる気が起きない」など、「自分で学ぶ(セルフスタディ)」というスタイルがうまくいかない理由はさまざまです。 しかし、学習者が途中で挫折してしまうのは、本当に本人の「やる気」や「意志の強さ」のせいだけでしょうか? インストラクショナルデザイナー(ID)の視点で見れば、挫折の多くは「学習者の気合が足りない」のではなく、「設計が現代人の脳の仕組みに最適化されていないこと」に起因しているような気がします。 そこで今回は、学習者が様々な理由から「ついやめてしまう」のを未然に防ぎ、完走へと導くための3つのID戦略についてお話しします。 1. 「無料の罠」を突破する:心理的投資の設計 無料、あるいは安価なeラーニングの最大の敵は、「失うものが何もない」という気楽さです。人間には「得ること」よりも「失うこと」を強く忌避する損失回避(Loss Aversion)という心理があります。 実際、筆者も数年前にオンライン講座を取った時は「これだけ払ったんだから頑張らねば!」と頑張りぬきました。無料だったら500%挫折してます(笑)。もちろん講座の内容や自分の目標などもありますが、やはり授業料によってコミットできたのかもしれません。 ID戦略例 学習者に莫大な料金を払わせる必要はありませんが、あえて有料にするのも一つの戦略になるかと思います。学習者は何かしら払うことで、それがいい意味でプレッシャーになり、学習のモチベーションになりますからね。 また、あえて最初に「このコースで何を成し遂げたいか」を自分の言葉で入力させたり、現在のスキルチェック(Pre-test)を受けさせたりするのもいいかもしれません。 「自分の目標を宣言した」「ここまで進めた」という既得権益を学習者に感じさせることで、「ここでやめるのはもったいない」という心理的なコミットメントが生み出されます。 2. 「1時間の壁」を壊す:ドーパミン・チャンキング 筆者も含めて、現代人は大体待つのが苦手です(笑)。用事があればすぐに済ませたいし、わからないことがあればすぐに解決したい。そんな現代人に「画面の前で1時間座って集中してください」というのは、ショート動画やSNSに慣れた現代人には、もはや「無理ゲー」に近い要求です。 ID戦略例 上の例のように、60分を一気にやるとなるとハードルが高いかもしれませんが、5分を12日に分けて行うのは、「できるかもしれない」気持ちになるのではないでしょうか。どちらも同じ60分なのに、その60分がどのように提供されるかで、受ける側の気持ちが変わってきます。 また、その12回を例えばスタンプラリーみたいにして可視化すると、自分の現状がわかって完走しやすくなります。途中でお休みしても、どこから再開すればいいかもわかりますもんね。 そして、単なる分割ではなく「報酬」を設計する コンテンツを5〜10分単位に刻む(チャンキング)のは基本ですが、重要なのはその「つなぎ目」です。 各チャンクの終わりに、すぐに正解がわかるクイズや、学んだことを即座にアウトプットする場を設けます。この「できた!」という小さな成功体験(Quick Wins)が脳内でドーパミンを放出させ、「次の5分もやってみよう」という連鎖を生み出します。 3. 「誰かいますか?」に応える:社会的実在感の演出 自習の最も過酷な点は、画面の向こうに誰もいないという「孤独感」です。勉強してても、今どこを勉強しているか、テスト対策はどうするか、ここがわかったか確認したいなど、生身の人間との交流がしたいと思う時があるのではないでしょうか。一人で黙々と勉強するのは集中できていいかもしれませんが、たまに「誰かぁ~」と言いたくなる時もありますよね(笑)。 ID戦略例 たとえリアルタイムの交流がなくても、設計次第で「Social Presence(社会的実在感)」を吹き込むことができ、「人間のつながり」を演出することができます。 例えば、コースをガイドやコーチ付きのストーリー仕立てにして、 「〜である」という説明文ではなく「〜してみませんか?」といったような語りかけのトーンにして「学習者に語りかける対話型」の文章にしたり、登録者との交流やQ&Aに対応する掲示板を設けたり、実際に会って話すことができなくても、「生身の人間同士の交流」を提供することはできます。 また、AIを単なる検索機ではなく、「一緒に伴走し、励ましてくれる相棒」としてキャラクター化するのもいいですね。例えばわからないことがあるときに、「これについてこう思うけどどうかな」とAIに聞いて意見をもらったり、課題があったら「これでこの課題を進めようと思うけど大丈夫かな。」ってフィードバックをお願いしたり。AIが相棒だと「今聞いても大丈夫かな。寝てるかな」など心配する必要がありません(笑)。 まとめ:設計が「背中」を押し続ける 「やる気を出せ」と精神論を説くのは、IDの仕事ではありません。 学習者が「うんうん。それでそれで?」、「どんどん行こう」、「ついうっかり最後までやってしまった」といった状態を、戦略的に作り出す仕事です。 効率化(AI)を追求し、専門家の知恵(SME)を詰め込んだその先に、学習者の心に寄り添う「挫折させない設計」があって初めて、学びは成果へと繋がります。 次回のコース設計では、「意志の力」を信じる代わりに、「設計の力」を信じてみませんか? 【企業研修・ID導入等のご相談はこちら↓↓↓】 → [お問い合わせページ] → [無料カウンセリング予約ページ]

  • 昨今のAIの発達っぷりはすごいですね。インストラクショナルデザイン(ID)界隈でも、AIの活用が急速に広がっています。 「ものづくり」において、0から1にする作業が一番時間がかかります。何もないところから作り出す苦労は、IDも同じです。AIが普及するまでは、当然すべて人の手で行われてきました。 インストラクショナルデザイナーとして、AIは痒い所に手が届く、ありがたい存在であることは間違いありません。「こんな感じのコースを作りたい」「このターゲットオーディエンスのためのモジュールを作って」と言えば数秒で作ってくれる――まるで魔法の杖のように語られることもあります。 AIあったらめっちゃ楽や~んって思うかもしれませんが、AIはあくまでお手伝いをしてくれる「ツール」であって、プロジェクトを主導する「リーダー」ではありません。魔法は存在しないのです。 では、AIはインストラクショナルデザインにおいてどのような立ち位置なのでしょうか。 そこで本記事では、インストラクショナルデザインにおけるAIの役割や利点・課題についてお話していきます。 インストラクショナルデザインにおけるAIの役割と利点 「サポーター」としての業務 AIは、膨大なデータの整理や、ゼロからイチを生み出す際の壁打ちにおいて、例えば以下のように労働集約的な作業を肩代わりしてくれます: これらは決して「手抜き」ではありません。プロジェクトの基礎を素早く構築するための「戦略的効率化」です。 また、学習目標やアクティビティを自分で考えたはいいが、それが多すぎて絞れないとなった時に、AIにどれがいいか聞いてみることもよくあります。 AIをこうした「たたき台作り」に活用することで、一人で煮詰まることなくコース作成に取り組むことができます。「相棒」みたいな感じですかね。 浮いた時間を「より重要なこと」へ投資する コース作成には様々な作業が伴います。インストラクショナルデザインにおいて、限られた時間の中でどこにどのくらい時間をかけるかは重要です。 AIを活用する最大の利点は、単なる時間の節約ではありません。節約して「浮いた時間をどこに充てるか」にあります。 教材開発(Develop)のフェーズをAIで効率化することで、例えば以下のような、IDの本質的な業務により多くの時間を割くことができるようになります: AI使用の課題 AIは確かに便利ですが、まだ発展途上であり、AIですべてが解決するわけではありません。 まだまだ人の手が必要であり、AIだけで完結するものではありません。 「人間による検証(Human Verification)」と「専門的判断」の不可欠性 AIがどれほど優れた提案をしても、それだけで完結させてはいけない理由があります。それは、AIは「その組織独自の文化」や「学習者が置かれた特有の文脈」、そして「最終的なビジネスゴール」を本当の意味では理解していないからです。 ここで、IDとしてのプロフェッショナルな判断(Professional Judgement)が必要になります。 また、AIは様々な有益情報を提供してくれますが、その情報がどこからのものなのか、その情報が正確なのかは、生身の人間による検証(Human Verification)が必要です。 この「人間による検証」のプロセスこそが、教材に魂を吹き込み、成果を保証するのです。 まとめ:AIに主導権を渡さずうまく付き合う AIでプロジェクトの骨組みがより早くできるようになり、より効率的にプロジェクトの作業が進むようになるでしょう。しかし、プロジェクトを主導し、意思決定を下すのは常に生身の人間であるべきです。AIは「依存先」ではなく、うまく付き合っていく「相棒」であるべきです。 IDが「主導権(Lead)」を握り続け、AIを最高の「サポーター」として機能させることで、私たちはこれまで以上に価値のある学習体験を提供できるようになるはずです。 【企業研修・ID導入等のご相談はこちら↓↓↓】 → [お問い合わせページ] → [無料カウンセリング予約ページ]

  • その「頑張り」は本当に成果ですか? 📌 シナリオ:提案が「手抜き」に変わった瞬間 あなたはインストラクショナルデザイナー(ID)です。 あなたの会社では、入社したら3日間の新人研修が行われます。 あなたはこの研修は1日にできると考え、その非効率な研修を改善すべく、IDの論理に基づいて「3日間の研修を、1日のウェビナーとEラーニング」に効率化する企画を上層部に提案しました。 しかし、返ってきた反応は、あなたの専門性とは異なる「感情」や「文化」に根ざした、厳しいものでした。 「3日間の対面研修」が「1日のオンライントレーニング」になるという、一見すると合理的なこの提案が、なぜ賛同を得られないのでしょうか? このシナリオこそ、日本の企業研修における「研修時間=頑張り」という独特な文化と、私たちIDの専門家が目指す「成果までの最短距離」が根本的に衝突している実態を映しています。 そこで本記事では、この文化的な摩擦を避けつつ、IDを使って効率化を「戦略的な成果」として進めていく具体的な戦略についてお話します。 なぜIDの「効率」は衝突するのか? 日本独自の「頑張り」文化と「時間信仰」 多くの日本企業には、プロセスそのものが「努力」や「熱意」として評価される「時間信仰」が存在します。研修後に具体的な行動変容やビジネス成果を測る仕組みが弱いため、結果的に「時間」という曖昧な軸で評価せざるを得ない構造があります。 また、eラーニングのアクセスログの厳密なチェックや、オンライン研修でのカメラオンの強制といった「監視文化」がID導入を阻みます。学習者は「学ぶこと」より「監視の目をクリアすること」に集中し、本質的な学習が疎かになるのです。 IDが求める「効率」の定義 IDにおける「効率化」は、決して研修の手抜きや時間短縮につながるわけではありません。 IDは、ADDIEモデルの分析(Analyze)フェーズに基づき、まず「パフォーマンスにおける期待と現状のギャップ」を明確化し、それを埋めるのに本当に必要な要素のみを「設計(Design)」するプロセスです。 つまり、我々IDの結論は明確であり、「時間をかける=一生懸命やる」ではないということです。 IDの目的は、最短で最大の成果を出すことであり、私たちの言う「効率化」は、「学習者が最も早く現場で成果を出せるように「学習体験を最適化」する」ことなのです。 「手抜き」から「戦略的成果」への変換 では、IDの導入を「手抜き」ではなく「戦略的貢献」と見なしてもらうにはどうすればいいのでしょうか。 例えば以下のような戦略が挙げられます: 戦略 1: 頑張りを「行動変容」に変換する(カークパトリックレベル3) 評価軸を「参加した」という頑張りから「研修後に現場で行動が変わったか」という成果に切り替えます。 カークパトリックのレベル3(行動変容)に基づき、研修終了後、一定期間を経てから上司の評価やピアレビューを通じて、具体的な行動の変化を測定します。これにより、「時間」ではなく「行動」という確固たるID論理で評価できます。 戦略 2: 浮いた時間を「戦略的な投資」としてコミュニケーションする 効率化で浮いた時間や費用は、「削減コスト」ではなく、例えば費用だったら、「その他の問題に取り組むためのトレーニングの開発および実施」、時間だったら「1日は全体の新人研修に費やし、残りの2日は部門ごとに分かれてより専門的な研修を行う」など、「より重要な学習や戦略的な業務に再投資できた時間」としてポジティブに報告します。 これは「手抜き」ではなく、「リソースの戦略的最適化」であり、会社のリソースを有効活用した貢献であると、上層部にロジックを提供します。 戦略 3: 監視から「自己管理」へと評価軸を転換する 監視文化の壁を乗り越えるため、受講者の「席にいる時間」といった監視をやめ、学習後の「課題達成度」や「現場での実践レポート」といった成果に直結する項目に評価を移行します。 学習者に自己調整学習(Self-Regulated Learning)を促すためのフィードバックを設計することで、監視コストを削減しつつ、自律的な学習者を育成することが可能になります。 極端な言い方をすれば、監視そのものが成果を生むわけではありません。いくら時間をかけようが机に向かって一生懸命やろうが、結果が出なければ、監視は不毛な労力になってしまいます。 「監視されている」ということで「とにかく無事に研修を終わらせる」ことが目標になってしまっては、その3日間は「ただの3日」になってしまいます。 まとめ 本記事では、日本企業に根付く「研修時間=頑張り」という文化が、なぜIDの「効率化」と衝突しやすいのかを整理しました。 IDにおける効率化とは、手を抜くことではなく、学習者が最短で成果を出せるように学習体験を設計することです。 あなたの組織では、研修の価値は 「どれだけ時間をかけたか」で評価されていますか。 それとも「どんな行動変容が起きたか」で評価されていますか。 【企業研修・ID導入等のご相談はこちら↓↓↓】 → [お問い合わせページ] → [無料カウンセリング予約ページ]

  • アクセシビリティ(A11Y)と聞いて何を思い浮かべますか? 多くの人は「色のコントラスト」「字幕」「代替テキスト」など、身体的な制約がある学習者への配慮、すなわちインクルーシブデザインを思い浮かべるでしょう。もちろん、これも学習環境の土台として不可欠です。 ただ、IDの仕事はそこで終わりではありません。 IDが解決すべきアクセシビリティの課題には、専門用語(Jargon)が飛び交う内容を「いかに理解し、行動できるか」という認知的な壁もあります。 ID における「アクセシビリティ」とは アクセシビリティ(Accessibility、略してA11Y)とは、誰もがその能力や環境に関わらず、情報やサービスにアクセスし、利用できる状態を指します。 一般的なIT分野では、身体的・技術的な障壁を取り除くことに焦点が当てられますが、インストラクショナルデザイナー(ID)におけるアクセシビリティは、さらに一歩踏み込みます 。それは、単に情報が見える・聞こえるだけでなく、「その情報を理解し、行動を変える」ことができる状態を保証することです 。 IDの視点から見ると、アクセシビリティは以下の二つの要素で成り立っています 。 では、具体的に例を挙げてみてみましょう。 ①物理的アクセシビリティ:同じ情報なのに。。。 物理的な面から見たアクセシビリティについて見てみましょう。 この二つは同じことが書いてあります 。どちらが見やすいでしょうか? 一見、左側の方がカラフルで目がいきやすいですが、背景と文字の色のコントラストが不十分で、文字サイズも「読みやすい」とは言い切れません 。他方、右側はシンプルですが、背景と文字のコントラストがはっきりしていて、文字サイズも適切です 。 誰もが「使いやすい」情報なのは、適切なコントラストとサイズが確保されている右側ですね。 ②認知的アクセシビリティ:同じ内容なのに。。。 次に、認知的アクセシビリティの面から見てみましょう。 どちらも同じ内容ですが、どのように見えますか? 左側のレシピを読んで具体的に映像が浮かぶ人は少ないのではないでしょうか 。そもそも専門の人でない限り、何を言ってるかあまり伝わらないように思えます 。 対する右側は専門用語をかみ砕いて一般向けの言葉に変えており、言葉を補足する形でイラストも使われています。 このように、伝えるべき情報をいかに「使える情報」に変えるかという翻訳者の役割こそが、IDの核となる能力です。 アクセシビリティ実現のポイント インストラクショナルデザインにおいて、「私もわかるしみんなもわかる」など、デザイナー視点で偏って見ないことが大事です 。 そこでアクセシビリティを考慮し、どんな学習者でも情報を「理解し、記憶し、活用できる」ことを保証するデザイン戦略を取り入れましょう 。 主なポイントとしては、以下が挙げられます: ✅ チェックリスト:物理的アクセシビリティ 項目 目的とIDのチェックポイント 文字サイズ 見出しや本文は適切なサイズになっているか。パソコンや携帯など、どんなデバイスでも適切なサイズになっているか。 色のコントラスト 背景と文字のコントラストは十分にはっきりしているか。背景の色によって文字が見にくくなっていないか。 メディアのサイズ 挿入された画像は適切なサイズか スペース 文字間や行間のスペースは適切に取られているか ✅ チェックリスト:認知的アクセシビリティ 項目 目的とIDのチェックポイント 専門用語(Jargon)の翻訳 知識レベルに関わらず理解できるか?業界用語や略語を、学習者が既に知っている言葉(Plain Language)に翻訳しているか。初出時に定義を添えているか。 構造とナビゲーションの一貫性…

  • インストラクショナルデザイン(ID)の理論を学ぶと、誰もが一度は「理想の学習体験」を思い描きます。魅力的なストーリー、緻密なスキャフォールド、洗練されたインタラクション…。 しかし、実際のプロジェクトに入ると、時間・リソース・組織文化・関係者の利害 といった“現実”が大きく立ちはだかります。 では、IDとしてそのギャップをどう埋めていけば良いのでしょうか。 IDの仕事は「理想を押し通すこと」ではない よく誤解されますが、IDの役割は「理想的な学習モデルをそのまま実装すること」ではありません。 本来の役割は、 完璧な学習デザインが必要なのではなく、制約の中で最も学習効果が高い選択をする判断力 が求められます。 ギャップは「悪いこと」ではなく、むしろ前提条件 プロジェクトでは、ギャップは必ず発生します。 IDの仕事は、この “前提として存在するギャップ” に向き合い、 それでも成果を出すための仕組みを作ること です。 すり合わせのコツ:3つの視点 理想と現実の間を埋めるために、私が特に大切だと思う視点は次の3つです。 1. 学習目標を「絶対に守る領域」と「調整可能な領域」に分ける 例えば: 守るべき領域 調整できる領域 「守るもの」と「変えられるもの」を明確に線引きすると、話し合いが圧倒的にスムーズになります。 2. 関係者の“本当の目的”を探る 関係者が表面的に言う要望には、しばしば 隠れた意図 があります。 例えば、表向きの要望は「動画でお願いします」には、実は「受講者が読み飛ばすから困っている」という本音が隠れてたり、 「スライドを派手にしてほしい」の隠れた意図(本音)は「上層部に説明しやすい形がほしい」だったり、、、。 真正面から理想をぶつけるより、背景や事情を理解しながら妥協点を探る方が、結果的に効果的 です。 3. 完璧さより“1歩前進”を優先する IDは改善サイクル(イテレーション)が前提です。 原案 → コメント → 修正 → テスト → 改善…というプロセスを繰り返すため、一度で完璧に仕上げる必要はありません。 むしろ 小刻みに進めた方が訂正しやすい です。いっぺんに仕上げて「ドヤァ」と提出した後に「こことここを直して。これはこれと差し替えて。ここは要らない」などと言われたら泣きますよ(涙)。 なので、 この方針を共有するだけで、関係者とのすり合わせが劇的に楽になります。 すり合わせが上手くいくと何が変わる? つまり、すり合わせのスキルはプロジェクト成功の核心 と言っても過言ではありません。 まとめ 理想と現実のギャップは、IDの現場では「当たり前」に存在します。大切なのは、ギャップに抗うのではなく、…

  • 企業研修に見る「文化」と「学び方」の違い 学習や研修のスタイルって、国や文化によってけっこう違うんですよね。その違いを理解することは、効果的な教材を作る上で欠かせません。 私は今カナダにいますが、日本ではまだ対面式の研修が主流だと感じます。新入社員と教育係の関係性を大切にし、「直接教える・一緒に体験する」スタイルが根付いています。 もちろんカナダにも対面研修はありますが、リモートワークやハイブリッド勤務の普及もあり、オンライン研修が急速に一般化しています。 日加の対照的な文化:「島」と「ブース」が生む学び 両国で研修スタイルが異なる背景には、職場文化が深く関係しています。 日本の「島」と“監視し合う空気”が生む学び 日本には「先輩・後輩」文化が強く、「上を見て学ぶ」スタイルが自然と浸透しています。 そして個人的な見解ですが、日本には少し “監視し合う空気” があるように感じます。オフィスの席も「島」型で、お互いが見える配置が多いですよね。 この環境は、教育係によるきめ細やかなフォローがしやすく、学習者が孤立しにくいというメリットがあります。 カナダの「ブース」と「自律」が生む学び 一方カナダはオフィスが ブース型 で、良くも悪くも「各自で頑張って」という雰囲気。物理的にも心理的にも距離があるぶん、自律した学び方が受け入れられやすいのだと思います。 またカナダは国土が広いこともあり、通信教育やオンライン学習が昔から普及していました。スマホも Zoom もない時代から、100%オンラインのプログラムが普通に存在していたんです。 (私も昔は課題を郵送したり、ディスカッション用の電話番号にかけて議論していました。ある日電話を「ミュート」にしたつもりがなってなくて、気付かずに鼻を思いっきりかんでしまい、インストラクターに「誰かわからないけど大丈夫?」と言われたこともあります(笑)。) こうした背景から、カナダでは「オンラインで学ぶ」ことに抵抗が少なく、むしろ自分のペースで進めたいというニーズが強いと感じます。 国ごとの学び方を教材設計に活かす 文化や環境の違いは、教材づくりに直接反映できます。例えば学習者にとって最適なプログラムを設計するために、同期型(Synchronous)と非同期型(Asynchronous)を使い分けます。 対象国 文化・学習ニーズ 教材設計の方向性(Instructional Design) 日本 教育係によるフォローが前提。孤立を避けたい 自分で進められる内容はオンライン(Asynchronous)で提供。対話や質問の機会を意識し、Synchronous(例:ライブQ&A、Zoomグループワーク)を入れると安心感が生まれる。 カナダ 自分のペースで進めたい、自律学習志向が強い 必要に応じてSynchronous(ライブ)でのウェビナーなども取り入れるが、基本は自己完結型 + 任意参加ディスカッション。国内に時差があるため Asynchronous(オンデマンド動画、課題提出)が好まれる。 文化背景を意識して設計することで、学習者に寄り添った、より学びやすいプログラムが実現できます。 まとめ:インストラクショナルデザイナーとしての強み 文化や環境の違いを理解して教材を設計することは、私のインストラクショナルデザイナーとしての強みのひとつです。 これからも「学習者にとってわかりやすい教材」を最優先に、効果的で続けやすい学びの形を追求していきたいと思います。 【企業研修・ID導入等のご相談はこちら↓↓↓】 → [お問い合わせページ] → [無料カウンセリング予約ページ]

  • 前回はデザイン段階の「エゴデザイン」について書きましたが、今回は開発段階におけるの「こだわり」の落とし穴についてお話しようと思います。 「こだわり」を持つことの重要性 インストラクショナルデザイナーとして「こだわり」を持つことは悪いことではありません。 例えば「明るいイメージにしたいから背景に黒はできるだけ使わない」とか、「大事な部分は丸々1ページ使って説明する」など、そのこだわりが効果的に働くのであればむしろ「強み」として持っておいた方がいいと思います。 ただ、それが間違った方向に行ってしまうと、、、学習者は置いてけぼりになってしまいます。 こだわりあるある 自分本位の教材開発 デザインで熱が入ったあと、いざ教材やコンテンツを開発し始めると、つい自分のこだわりを優先してしまうことがあります。 「1ページに2セクション入れるルールを作って一貫性を出そう。ん?ちょっと文字がぎゅうぎゅうかな。でも2セクション入れたいからこの図を小さくしてこっちに動かせば、、、できたっ。」「ここは大事だから、大事とこには黄色のハイライトでバーンと入れて、ここの図も大事だからデッカイ図をこのハイライトの横にドーンと差し込んで解説ね。」 …そのこだわりは学習者のためですか? 私もつい「自分ルール」を作ってしまいがちなので、耳が痛い話です(笑)。でも、自分が作っていて満足するもの=学習効果が高い、とは限りません。 アクセシビリティの軽視 さらに、この自分本位の作り込みが進むと、例えば以下のようなアクセシビリティがおろそかになりがちです。 どれも小さな問題に見えますが、「誰もが学べる環境作り」というのは、多様な学習者の状況を考慮することが大前提です。「あなたが」見やすい、「あなたが」読みやすいものを作っても、学習者によっては大きな障壁になり、せっかく作った教材も学習効果が半減してしまうことがあります。 ID的解決策 そこで、ID の目線で考える際には、以下のような項目を頭に入れておくとが重要です: まとめ:あなたのこだわりは学習者を支えることにプラスに働いていますか? 今回は、開発段階で陥りがちな「こだわりの落とし穴」についてお話しました。教材やコンテンツは、作り手のこだわりや見栄ではなく、学習者が目標を達成するための道具です。ここでしっかり意識することが、せっかく作ったプログラムを「価値ある学習体験」に変える第一歩です。 【企業研修・ID導入等のご相談はこちら↓↓↓】 → [お問い合わせページ] → [無料カウンセリング予約ページ]